こんにちは。鉄道員(ぽっぽや)社長の柴田です。
先日(11/26)、JR東日本スタートアッププログラム2020DemoDay(発表会)を開催しました。
今回は、新型コロナウィルス感染症予防の観点から、無観客にて開催、当日の模様をオンラインでLIVE配信する形をとりました。
…でも、そもそもリアルのインフラで勝負している会社です。
オンライン配信とは相性が良くなかったのか、いきなりライブ配信がストップ。急遽、配信URLを変更するという波乱のスタートとなりました。
このおおよそ15分間の舞台裏は、それだけでドラマになるほどの戦場でした…。あらためて、当日オンライン配信が遅れましたことを深くお詫び申し上げます。
さて、そんな波乱のスタートとなったJR東日本スタートアッププログラム2020DemoDay。
発表会には、共創パートナー18社の皆さんが登壇。これまで練り上げてきた「ベンチャー×JR」の事業共創プランを披露しました。
「事業共創プラン」の言葉どおり、私たちのプログラムは、「事業をつくる」ことにとことんこだわっています。
共創パートナーの皆さんには、年度内に必ず、JR東日本のインフラを使った実証実験をすることをコミット。これまでもさまざまな現場で、さまざまなチャレンジを行ってきました。
この3年間でその数は、実証実験57件、そのうち約半数の28件を事業化しています。
もちろん、今年の事業共創プラン18件についても、事業化をめざしていきます。
半数と言わず、実証実験をぜんぶ成功させて、ぜんぶ事業化したい。本気でそう思っています。
その思いは、当日登壇した18社のプレゼンを聞いて、さらに高まりました。
主催者が言うのもなんですが、いずれのプランもJRのさまざまな現場でのコラボが見据えられていて、課題感やKPIも具体的。もちろん、これから実務のハードルは高いですが、何としても乗り越えて、事業化につなげていきたい。強く強く、そう思いました。
ほんとうは、そんな共創パートナー18社の事業共創プランをぜんぶ紹介したい!
…のですが、それはまた別の機会にして、今日はその中から、社外有識者らの審査を経て各賞を受賞した各社を紹介します。
【スタートアップ大賞】株式会社フォトシンス
まずは、総合グランプリにあたる「スタートアップ大賞」。
こちらは、株式会社フォトシンスが受賞しました。おめでとうございます!
共創プランは、「Suicaを活用したスマートビル入退館システムの開発」。
SuicaのIDを活用して、事前インターネット受付によるビル入退館や駅業務施設の入退館を可能にするシステムを開発。新しいSuicaの活用方法を創出し、他施設への展開を含めた事業化にチャレンジします。
フォトシンスの展開するスマートロック「Akerun」は、すでに東京都のオフィスワーカーの7.4%が利用するまでに成長。IoT技術の進化により、急速に物理鍵からスマートキーへの置き換えが進んでいます。
一方で、JR東日本は約1700の駅に、業務施設を含めると10万もの扉があると想定されますが、そのほとんどが物理鍵(キー入力方式含む)なのです…。
今回の実証実験では、まずはJR東日本の業務施設で、Suicaを活用したスマートロックシステムの開発・導入をめざします。
JR本社ビルでの運用・検証を経て、「いつものSuicaでゲートを通過」できる世界を実現。JRの他業務施設さらには外部施設への展開をめざしていきます。
Suicaを、駅の入り口からすべての生活の入り口へ…。
Suicaを「鍵」に、すべての認証をワンストップで実現するチャレンジ。ビジネスモデルも、使用頻度に応じてフィーを収受する仕組みを構築。同社と連携して、Suicaが社会の共通基盤となる世界をつくっていきます。
実は、今回が3度目のチャレンジとなるフォトシンス河瀬さん。
これまではSuca利用の壁は厚く、涙を飲んできました。それでもたゆまぬ技術革新を進め、JR側もスタートアップ連携に力を入れてきたことが、今回の事業共創につながったものととても感慨深いです。
何よりも、Suicaのポテンシャルをもっと引き出していきたいというのは、スタートアップもJRも共通の思いです。他にももっとやれるはず。Suicaから新しい未来をつくっていきましょう!
【優秀賞】株式会社さとゆめ
優秀賞は2社が受賞。1社目は、株式会社さとゆめです。
同社との共創プランは、「『沿線まるごとホテル』による無人駅からはじまるマイクロツーリズムの実現」。
グランピングやクラウドファンディングに続く「無人駅」シリーズ(?)。
今回は、規模を拡大して、沿線の無人駅をまるごと活用した、新しい沿線ツーリズムに挑戦です。
さとゆめが大切に築いてきた地域とのネットワークと、JRの持つ無人駅をはじめとしたインフラをコラボして、「沿線まるごとホテル」を実現。
無人駅をホテルのフロントにするとか、近隣の豊かな自然や地元の味を楽しんでもらうとか、古民家をリノベしたホテルをつくるとか、「沿線」を切り口にした新しい旅をつくっていきます。
まずは、青梅線からチャレンジをスタートします。
鉄道会社ならではのスケールの大きなチャレンジ、ぜったいに実現したいと思っています。
【優秀賞】ソナス株式会社
もう1社、優秀賞を受賞したのは、ソナス株式会社です。
同社との共創プランは、「無線計測技術を用いた高効率なインフラの維持管理の実現」。
ソナスが保有する次世代IoT無線技術UNISONetを活用して、鉄道メンテナンスを近代化しようというチャレンジです。
このUNISONetは、これまでにない転送方式を活用した高効率で安定したマルチホップ無線。これにより、無線が「信頼できない」「安定しない」「使いづらい」といったIoTの足かせを外します。
この技術、すでにひと足早く現場に試験導入してるのですが、従来のものに比べて圧倒的に簡素・小型・軽量。
もうコストダウン効果は明らか。あとは安定稼働や実務面の課題を検証していきます。
さらにこの技術を展開することで、従来の仕事の置き換えだけでなく、情報集約化による新たな効果も期待できるんですよね。
まずは、架線張替え現場と駅建設現場から。次世代無線で次世代のメンテナンスにチャレンジしていきます。
【オーディエンス賞】SD C株式会社
聴衆の皆さんの投票によって決定する「オーディエンス賞」。
オンライン配信の視聴者から強い支持を受けたのは、SD C株式会社でした。
同社との共創プランは、「オンライン問診を活用したスマート健康ステーションの実現」。
いまの世情もあって、「健康」に対する関心は非常に高いようです。視聴者の「実現してほしい」という思いを強く感じるオーディエンス賞です。
オンライン問診とセルフケア薬局を、身近な駅で展開しようというプラン。
そこから、With/Afterコロナに対応した駅の健康ステーション化を実現していきます。
「駅は移動のための拠点から、健康になるために行くヘルスケアプラットフォームへ」。
駅のあり方に一石を投じる意欲的な共創プラン。「健康」は重要なキーワードです。
駅が健康のためにできることは何か…。今回のチャレンジを「健康ステーション」への一歩につなげていきたいですね。
【審査員特別賞】グリーンインパクト
そして、審査員特別賞を受賞したのは、グリーンインパクトです。
共創プランは、「湧水を活用したワサビ栽培による地域活性化と地域産業創出」。
これは、今回の目玉とも言うべき、異色の事業共創プランです。
なんと、鉄道のトンネル等から湧きでる水を活用してワサビを栽培、それを事業化しようというものです。
実は、鉄道会社にとってトンネル湧水等の排水処理は悩みの種…。
一方で、その豊富で良質な湧水は、生産量が激減しているワサビ栽培にとっては、宝の山ならぬ宝の水なんです。
実は、このプランの提案者・高橋泰昭さんは、2017年のJR東日本スタートアッププログラム(インキュベーションコース)の採択者。
3年越しのチャレンジで、この事業共創プランをつくり上げました。しかも、実はすでにチャレンジが進んでいて、千葉房総やGALA湯沢で湧水を活用したワサビ栽培が始まっています。
近いうちに駅弁や駅の食堂で、トンネル湧水で育ったワサビを食べられるかも…。
新幹鮮魚とのコラボもいいかもしれませんね。今後の事業化を大いに期待したい、審査員特別賞でした。
あらためて、受賞された皆さん、おめでとうございました。
また、惜しくも受賞を逃した皆さん、素晴らしいプレゼンをありがとうございました。
いずれの共創プランも、事業化に向けたアツい思いが込められていました。心はずっとアツいまんまで、事業化まで突っ走っていきましょう!
発表も終えて表彰式の最後に、審査員の仮屋薗聡一さん(㈱グロービス・キャピタル・パートナーズ代表パートナー)がこんなコメントで締めくくってくれました。
すばらしいプロジェクトばかり。起業家の皆さんから、熱気や熱い思いを浴びました。
これから18件のプロジェクトが、JR東日本のプラットフォームを通じて、日本を明るく、元気にしていく。そんな勢いを感じました。JR東日本のプログラムは、日本のみならず世界でも例のないユニークなプラットフォームだと思います。
今日だけでも、恋愛アプリからわさび、スマートキー、無線IoTまで、本当に幅広いプロジェクトが示されました。それだけの社会的インフラを持っていて、それをPoCに提供できている。起業家にとって、本当にこんな機会はないと思います。コロナ禍の状況ではありますが、であるからこそ、この素晴らしいプラットフォームの上で数多くの新しいプロジェクトを輩出していただきたい。そして、日本の明るい未来がここから生まれていくような、企業群が生まれていくような、そんなスタートアップの活躍を今後も支援していただきたいと思います。
仮屋薗さん、ありがとうございます。
力強いエールをいただき、こちらこそ熱くなりました。もっとやるぞ!という意欲が湧きました。
そうです、私たちがめざすのは「新規事業の始発駅」。
日本の明るい未来をつくるプラットフォームとして、これからもベンチャー企業の皆さんと新たな事業共創を進めていきたいと思います。
皆さん、よろしくお願いします。