こんにちは。鉄道員(ぽっぽや)社長の柴田です。
今日は、徒然なるままに、最近考えている「オープンイノベーションの意味」について、そこはかとなく書きつくりたいと思います。
オープンイノベーションとは
オープンイノベーションとは、自社以外の組織や機関が持つ知識や技術をとり入れて、革新的なビジネスモデルや製品・ソリューションを創り出していくこと、などとモノの本に書かれたりしています。
JR東日本グループでは、2018年に経営ビジョン「変革2027」を発表し、その中でこの「オープンイノベーション」を大きく掲げ、積極的に社外と連携していくことを宣言しました。
私たちの会社の設立もその流れの一環。「社外」のなかでも、JRとはとびっきりかけ離れたベンチャー企業との連携を進めていくために設立されました。
このときも、またその後も、私はこう理解していました。
オープンイノベーションとは、大企業が陥りがちな「自前主義」を打破するものである、と。そう、「脱自前主義」を進めるものだと、考えていたのです。
ただ、実際に起業家の皆さんと出会って、いろんなチャレンジを重ねていくうちに、実は「違うんじゃないか」と思うようになりました。
起業家の方たちの熱い思いに鼓舞されて、自らもその一員として課題にぶつかって、壁を乗り越えようと試行錯誤しながら、より良い未来を実現することをひたすら信じて、新たな地平を切り拓いていく…。
このプロセスって、めちゃくちゃ「自前」なんですよね…。
言い換えるなら、めちゃくちゃ「自分ごと」感が強くなった。脱自前主義どころか、むしろ、自前でやることのほうが増えました。
脱ビューティーコンテスト
これ、どういうことかというと、そもそもこれまでの仕事の仕方が自前じゃなかったことも大きいのかもしれません。
大きな組織になると、高度に分業や外注が進んでいたりして、実は自前じゃない部分が多いんですね。
大型商業施設のデベロッパーとテナントの関係をイメージすると分かりやすいでしょうか。
大企業の役割は、デベロッパーとして最適なテナント(=事業者)を選ぶことだったりします。でもって、対顧客のところやリアルな現場は外部の事業者が請け負うようなスタイル。
これはこれで、大きな組織やシステムを運営していくためには必要な仕組みなんですが、ややもすると、現場感覚が薄れたり、ビューティーコンテストの審査員的な立ち位置になったりするんですよね…。
これだと、変化の激しい時代、新たなチャレンジをしようとするときの最初の一歩が遅れちゃう…。どうしても機動力が劣るように思います。
たとえば、鮮魚の新幹線輸送なんていう新しい事業を切り拓こうとするとき、それができる事業者をコンテストで選ぼうとしたって、できるひとがいません。
だから、「自前」で創っていくプロセスが必要になってくるんですよね。そのときのパートナーがベンチャー企業であったり、地方の漁業関係者であったりします。
いわゆる「ゼロイチ」ってやつですね。もちろん、このとき私たちJR側もリソースの提供や仕組みの構築など、ものすごく汗を流して新しい事業をつくっていきます。その「自分ごと」感は半端ありません。
この「自分ごと」感が新規事業にはめちゃくちゃ大事。だから、オープンイノベーションは、少なくともベンチャーとの事業共創は、脱自前主義じゃない。むしろ、脱「脱自前主義」なんじゃないか…。そう思うんです。
熱量は感染する
もう一つ、ベンチャー企業との事業共創で、私たちの「自分ごと」感を大いに高めるものがあります。
それは、起業家の皆さんの熱い思いです。
起業家たちが自らの夢を実現させようとするパワーって、ものすごいんですよね。
すべて1人称。「できない理由」より「やるための工夫」。仕事が好きで好きでしょうがない。会社が人生そのもの…。
これって、多くの大企業サラリーマンが失ってしまっているものではないでしょうか。
大企業サラリーマンも、少なからず「より良い社会をつくりたい」という夢を持って入社するのですが、業務の多忙や高度に分業化された組織の中で、いつの間にか上司の指示を効率的に確実にこなすことが仕事の目的になったりします。かくいう私がそうでした…。
無人駅をグランピングの聖地にしたい、ゴミを燃料に列車を走らせたい、駅をアートミュージアムにしたい…。
大きな組織では「できない」と一蹴されそうな、そんな夢に本気で取り組み、諦めずにチャレンジする彼らは、私からしてみると、自分が送りたかった若かりし日々の幻影。忘れてしまった夢を思い起こすものです。
私は、この現象(?)を「青春リベンジ」と呼んでいます。
私たちのところに来るベンチャー企業は、公益インフラを持つJRとコラボして、より良い社会をつくりたいとか、地域の課題を解決したい、震災復興を成し遂げたいとか、そうした夢を持っているところが多い。それって、めちゃくちゃ共感するんですよね…。
熱量は、感染します。ベンチャーの夢が、いつの間にか自分の夢になる。
ぜったいに夢を実現しようって、それこそサラリーマンとして失った「青春」を彼らの活動に投影するかのように、思いっきり「自分ごと」としてチャレンジするようになるんです。かくいう私がそうなりました。
脱「脱自前主義」
しかも、その夢を実現するために、大企業が持っているインフラを提供することが大いに貢献します。
役に立てるって、やりがいがありますよね…。世のため人のため、より良い社会のためってのは熱量が上げります。今更ながら、これこそ大企業の強みであり役割なんじゃないかと切に思います。
だから、大企業でオープンイノベーションに取り組んでいる人は、「脱自前主義」だなんて、思わない方がいいと思うんです。
少なくとも、ベンチャー・コラボは、安易に外部に任せようなんて思わない方がいいと思います。むしろ、自分でとことん汗を流す、大変な道のりが待っているんだと、覚悟を持って臨んだ方がいい。
それを誤解して、なんだか楽しそうだとか、好奇心があればできそうとか、思わない方がいいと思います。
むしろ、とことん実務に精通している人が、持てる力を200%発揮してやるのが、ベンチャーとの事業共創です。
そうしないと、人生を賭けている起業家の皆さんに失礼ですから。
…というわけで、私は考えをあらためました。
オープンイノベーションは、少なくともベンチャーコラボは、脱自前主義じゃない。むしろ、脱自前主義を脱することである、と。
ベンチャー企業という異なるものと本気で向き合うことで、自らの足らざるものに気づき、自らの強みをもう一度認識して、自分たちがやりたかった新しい事業にチャレンジする。
それこそ、大きな組織の中で失ってしまった夢であったり、自分ごと感=当事者意識を取り戻す。
それが、大企業のポテンシャルを呼び醒ます、ニッポン再興の処方箋。オープンイノベーションの本当の価値なのではないでしょうか。
私たちは、本気で、脱「脱自前主義」を進めていきます。
皆さん、よろしくお願いします。